第2話 トト
私の名前はトト。敬愛するご主人さまが付けて下さった、私だけの名前。
一月前、モモと私は大阪という街から、今のご主人さまのおうちへ連れてこられたの。帰り道、ご主人さまは私たちが入った袋をとても大切に優しく抱きしめて下さった。その時に決めたわ。私はこの人にずっとついていこうって。
あたらしいおうちに着いてすぐに、ご主人さまは私たちに名前をくれた。
桃色のモモと、なぜか、トト。多分、モモと似たような語感だからでしょうね。はじめにモモありき。私の方はおまけでしかないのよ。
それですぐに分かったわ。あの方は、私よりモモの方が好きなんだって。その推論が間違ってないってことも、すぐに。
ご主人さまがモモを見る瞳は柔らかい。私を見る時とは違う、愛情を感じられる。見つめる時間の長さが、私とは違う“特別”な存在だと物語っていた。
不安じゃないって言ったら嘘になるわ。それでも、私はご主人さまが好きよ。大好き。
沢山の仲間の中から、私を選んでくれたんだもの。私を見つけてくれたんだもの。
私が私でいることの、意味を与えてくれた人だから。
緑のお部屋に来て、しばらくたった日。ご主人さまはモモではなく、私だけにフェルトで作った小さなパンダのお友達を与えてくれた。縫い目はがたがたで、お世辞にも可愛いとは言いがたいものだったけれど。温かかった。私の小さな胸は感激でいっぱいになる。
……たとえそれが、私よりモモを愛していることからきた、罪悪感でしかなくても。
私はあの方が好きよ。
好きなのよ?
一度でいいの。嘘だっていいの。
私の目を見て、トトだけだって言ってくれたなら。
そしたら、こんな不安に支配されることもないのに。